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水戸地方裁判所 昭和26年(行)21号・昭26年(行)20号 判決

原告 藤平徳治 ほか一名

原告補助参加人 岡野伝六 ほか一名

被告 茨城県農業委員会

一、主  文

茨城県農地委員会が、昭和二十六年四月十七日茨城県稲敷郡朝日村大字実穀字寺子一五二一番山林一町四反一畝二十三歩につき樹立した買収計画のうち北側七反歩(雑木林の部分)に関する部分を取り消す。

原告菅谷六郎の請求を棄却する。

訴訟費用のうち原告藤平徳治と被告との間に生じた部分は被告の負担とし、原告菅谷六郎と被告との間に生じた部分は同原告の負担とする。

二、事  実

第一、当事者の申立

原告藤平は「茨城県農地委員会が昭和二十六四月十七日茨城県稲敷郡朝日村大字実穀字寺子一五二一番山林一町四反一畝二十三歩につき樹立した買収計画のうち北側七反歩に関する部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

原告菅谷は「茨城県農地委員会が昭和二十六年四月十七日茨城県稲敷郡朝日村大字実穀字寺子一五二〇番の二山林一町三反八畝二十六歩につき樹立した買収計画を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)買収計画の経過

被告の前身たる茨城県農地委員会は、請求の趣旨記載の二筆の山林につき、昭和二十六年四月十七日自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号に該当する土地として買収計画(買収期日同年七月一日)を樹立し、同年四月二十三日公告したので、原告藤平はその所有地である一五二一番の山林につき、又原告菅谷はその所有する一五二〇番の二の山林につき同月二十五日それぞれ異議を申し立てたところ、同委員会は同年五月三十日、原告藤平に対してはその所有山林のうち松林となつている部分即ち南側七反一畝二十三歩につき異議を容認したが、その余の地域即ち請求の趣旨記載の七反歩(雑木林の部分)についてはこれを却下し、又原告菅谷に対しては異議を全部却下した。そこで原告藤平は同年六月八日、同菅谷は同月六日、それぞれ訴外茨城県知事に対し訴願を提起したが、同月二十八日棄却されその裁決書謄本は同年七月一日原告等に送達された。

(二)買収計画の違法

(い)原告両名共通の主張

(1)前記二筆の山林は、大字実穀字寺子地内の同山林の下方に位置する俗に北古辺と称する地域の水田約二町歩の灌漑用水の給源地の一部となつている関係上、右山林が買収開墾せられるときは、同水田は水不足を来し、稲は枯死することとなる。

(2)前記山林の附近では容易に開墾できる山林があり、殊に南方の字寺子一五四九番の山林の如きは非農家である訴外川田四郎の所有であつて、買収されても何等営農上支障を来たすというような事情にはない土地であるのに、これをさておいて農家である原告等の営農上必要な右山林を買収することは違法である。

(3)本件買収計画は入植予定者四名に割当てるために樹立せられたものであるが、茨城県稲敷郡朝日地区に対し先に樹立せられた所謂第一次買収計画に組入れられ買収となつた未墾地二十七町歩のうち、訴外大木一外二十七名に対し配分(売渡処分の意、以下同じ)のなされた二十四町七反一畝二十六歩については、その一部に次のような不公平な点がある。即ち大木功八は父元八と同居しており、元八は自作地一町九反三畝十七歩を有しているにかかわらず、功八は一町四反五畝二十四歩の配分を受けている。(然も大木一、大木多重は功八の兄弟であり同居こそしていないがそれぞれ配分を受けている。)次に金子勇は父勇三郎と同居しており、勇三郎は自作地一町五反畝六二十七歩を有するにもかかわらず、勇において更に一町一反二十一歩の配分を受けている。又野沢由男は野沢秀治の長男で、秀治は自作地二町七反二畝十三歩を有し、同人が不具のため事実上は由男が耕作している状態であるにもかかわらず、由男において更に八反一畝十一歩の配分を受けている。更に山口新市は自作地一町四反十八歩、山口新治は自作地二町九畝二十三歩、高橋良助は自作地二町三畝二十六歩を有するにもかかわらずそれぞれ数反歩の仮配分を受けている。そして前記買収にかかわる二十七町歩のうち右のように二十四町七反一畝二十六歩は配分がなされたが、その余のうち墓地一反五畝歩を除き残り二町一反四畝四歩は配分がなされず、そのうち事実上仮配分された土地は若干あるが、これを除いても約三反歩残存している。以上の通りであるから、前記の不公正な売渡処分を取り消して配分を是正すれば、冒頭に掲げた入植予定者四名に配分すべき二町四反歩は自然得られるわけであつて、敢えて本件買収をなすに及ばないのである。即ち本件買収はその必要性を欠くものである。

(ろ)原告藤平の主張

原告藤平は復員後分家をなし、昭和二十五年一月実父常之丞から本件一五二一番の山林を薪炭採草林として譲受けたのであるが、田二反三畝一歩、畑一町三反七畝十六歩(但し畑のうち一部は湿地で実際に耕作しているのは一町歩弱)を耕作し、牛一頭豚二頭を有し、右山林は他の所有山林(一五二三番三反七畝十八歩)とともに薪炭採草林として使用している。しかも同人の兄源一郎は田五反歩畑二町五反歩を耕作し、牛豚各一頭を飼育しているが、同人の所有する山林は一町五反二畝十六歩を既に買収せられ、現在八反二十六歩を所有するに過ぎないため、同原告の所有する前記各山林はいずれも源一郎と同原告の両名で共同して使用している状態であり、本件一五二一番の山林を買収せられるときは、原告藤平及び兄源一郎方では薪炭採草林に事欠き、営農上大なる支障を来たす結果となる。このような事情を無視して右一五二一番の山林について樹立した買収計画は違法であり、その内南側七反一畝二十三歩は異議が容認されて右計画は取消されたけれども、残七反歩については右計画は依然違法を免れない。

(は)原告菅谷の主張

原告菅谷は田五反八畝畑九反五畝を耕作する自作農であつて、本件一五二〇番の二の山林のうち北側の約二反歩は昭和十六年頃参加人岡野伝六に採草林として貸与し、又南側の三反八畝歩余は右山林の南側に隣接する一五二〇番の一の山林とともに昭和二十一年中参加人野口豊吉に(名義人は野口末次郎)採草林として貸与し、残り中央部約八反歩を原告菅谷が薪炭採草林として使用している。原告菅谷は本件一五二〇番の二の山林の外四町歩余の山林を所有しているけれども、それは殆んど松山と杉山のみであり、内八反歩のみは櫟山であるがそれも訴外鈴木左平と同浅野万太郎に四反歩宛採草林として貸してあり、原告菅谷自身が薪炭採草林として使用できる土地は本件一五二〇番の二の山林の中央部のみである。従つてもし右山林を買収されるならば、原告菅谷は唯一の薪炭採草林を失うこととなるばかりでなく、参加人岡野も亦唯一の採草地を失い、同野口も採草地の一部を失うこととなり、いずれも営農上大なる支障を来たすことは明らかである。このような事情を無視して本件買収計画を樹立したことは違法といわなければならない。

以上の理由により原告藤平は一五二一番の山林につき茨城県農地委員会が樹立した買収計画のうち同山林の北側雑木林七反歩に関する部分の取消を求め、原告菅谷は一五二〇番の二の山林につき同委員会の樹立した買収計画の取消を求める。

二、答弁

原告等の主張事実中、

(一)の事実は認める。

(二)(い)(1)については、本件一五二〇番の二の山林が附近の山林に対し水源地として重要な位置並びに状態にあり、これを開墾することにより附近の水田に対し悪影響を及ぼすと云うようなことはない。

同(2)の事実については、本件山林以外に開墾に適する山林があるとか、それが非農家の所有であるということは、本件買収計画を違法たらしめるものではない。

同(3)の事実については、大木功八は大木元八の四男であるが、既に分家別居して居り、入植者である。金子勇は金子勇三郎の次男であるが、既に分家別居し、約一反歩を耕作していたに過ぎない。野沢由男は野沢秀治の長男であるが、秀治の農業経営は次男貞治郎に承継させることになつており、由男は売渡を受けるとともに分家別居している。山口新市並びに山口新二及び高橋良助に対しては売渡をなした事実はない。従つて原告等主張の所謂配分についてはその主張のような公正に欠ける点はなく、又買収地と売渡地との間に面積上の差異があるのは防風林、採草林、水路等に充てた地域があるためで、防風林は一町四反九畝二十九歩、採草林は五反三畝九歩、水路は一反一畝五歩をそれぞれ残している。

(二)(ろ)の事実中、原告藤平の耕地面積がその主張の通りであることは認めるが、本件七反歩の山林が買収せられても、なお一町九畝十一歩(一五二一番山林中異議容認により同原告の保有地となつた七反一畝二十三歩と原告主張の一五二三番三反七畝十八歩)の山林を保有し、実兄源一郎が原告藤平とともにこれを薪炭採草林として使用するとしても、必らずしも右両名の営農上大なる支障を来たすものとは考えられない。

(二)(は)の事実中、原告菅谷の耕地面積がその主張の通りであることは認めるが、同原告は本件一五二〇番の二の山林を買収せられてもなお四町九反九畝二歩の山林原野を保存し、営農上支障を来たすことはない。原告菅谷が右山林を他に採草林として貸しているとの点及び参加人野口豊吉及び同岡野伝六が本件一五二〇番の二の山林のうち原告主張の部分を採草地として原告からそれぞれ借受け使用しているとの点は否認する。

第三、立証<省略>

三、理  由

第一、本件買収の手続経過

被告の前身たる茨城県農地委員会が昭和二十六年四月十七日、原告藤平所有の茨城県稲敷郡朝日村大字実穀字寺子一五二一番の山林及び原告菅谷所有の同所一五二〇番の二の山林に対し、同地を自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号に該当する土地として買収計画を樹立し、同月二十三日公告したので、これに対し原告等から同月二十五日同委員会に異議の申立をしたところ、同年五月三十日原告藤平の異議は右一五二一番の山林のうち南側七反一畝二十三歩については容認されたがその余の部分即ち北側の雑木林七反歩については却下せられ、又原告菅谷の異議は全部却下せられたので、更に原告藤平は同年六月八日、原告菅谷は同月六日それぞれ茨城県知事に訴願を提起したが、同月二十八日棄却せられ、その裁決書謄本は同年七月一日原告等に送達せられたことは当事者間に争がない。

第二、右買収計画の適否

原告等は右の所謂未墾地買収計画は数点において違法であると主張するから順を逐つて判断する。

一、本件山林が水源地として必要であるとの主張について

原告等は、本件二筆の山林はその下方に位置する水田約二町歩の灌漑用水源地の一部となつている関係上、右山林が買収開墾せられるときは、右水田の耕作が非常に困難となる旨主張するけれども、これを肯認するに足る証拠は存しない。

二、買収未墾地として本件山林を選定したことが違法であるとの主張について

自作農創設特別措置法第三十条による所謂買収未墾地の具体的選定については同法は何等の規定を設けず農業委員会が自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進しようとする目的の枠内でその政策的乃至技術的な裁量処分を為すことを許容している。しかし乍らかかる裁量処分と雖も目的によつて一定の限界があり、これを逸脱した場合は条理に反し違法となるものといわねばならない。ところで原告主張のように本件山林の近くに非農家の所有で開墾に容易な山林があるとしても、単にそれだけのことで本件山林の買収を違法と認めるわけにはゆかない。非農家の所有する山林であつても、他人がこれを借り受け主として採草の用に供する目的で使用している場合には、実質上牧野に該当するものであるからこれを未墾地として開発の目的で買収することは許されないことであるし、又実質上未墾地に該当するものとしてもその使用の状況その他諸般の事情を考慮した上、農地委員会がこれを買収するかどうかを決すべきものであつて、右の山林を買収せずして本件山林を買収することとした農地委員会の計画が、自作農創設特別措置法第三十条の目的に照し、甚しく不当であるということについての原告等の主張立証は極めて不十分であり、前記原告等の主張は採用のかぎりでない。

三、所謂朝日地区第一次買収未墾地の売渡処分が不公正であり、ひいて本件買収計画が違法であるとの主張について

昭和二十三年十二月二日樹立せられた茨城県稲敷郡朝日地区の所謂第一次買収計画にもとづき未墾地百十九町八反歩が買収となり、うち約二十八町歩が朝日村開拓組合員に売渡されたが、同組合員佐々木健三外三名は当時組合に加入していなかつた関係上僅かに各八反歩(内五畝歩は宅地用)の売渡をうけたに過ぎなかつたので、茨城県農地委員会は専業農家としてその経営が困難であると認め、同人等に増反させる目的で本件買収計画を樹立するに至つた経緯は成立に争のない乙第十四号証、証人吉野嘉一の証言その他本件弁論の全趣旨に徴し明らかである。原告等は右約二十八町歩のうち未だ売渡されていない土地は事実上仮配分された部分を除いても約三反歩あるばかりでなく、右組合員の一部に対する売渡処分は原告等主張の理由により不当であるからこれを取り消すときは前記四名に売り渡すべき未墾地は自ら得られ本件買収の必要はないというけれども、原告等の立証によつては、右のような事実を認定するに十分でないから、この点についての原告等の主張も採用することができない。

四、本件買収により原告等の営農に対して重大な支障を来たすとの主張について

自作農創設特別措置法第三十条による未墾地の買収は、その必要性の認定に関しては所謂自由裁量が認められているものと解すべきであるが、唯その買収によつて当該未墾地を管理使用している耕作者の営農に対し重大な支障を与えその地位の安定をおびやかす結果を来たすような場合には自作農創設の目的を逸脱するものであり、かかる買収は違法であるといわねばならない、そこで、この見地よりして右の点に関する原告等の主張について順次判断することとする。

(1)原告藤平関係について

原告藤平が田二反三畝一歩、畑一町三反七畝十六歩(実際に耕作していない湿地部分を除くと畑一町歩弱)を耕作しており、本件一五二一番の山林の内七反一畝二十三歩については異議申立が容認され買収計画が取り消されたこと、同人が右の外一五二三番山林三反七畝十八歩を所有することはいづれも原告藤平と被告の間において争のないところであるから、同人の保有山林は合計一町九畝十一歩となり、同原告が単独で前記の山林を使用するものとすれば山林の耕地に対する面積比は約九割となり、成立に争のない乙第十四号証によれば、松林の部分五反一畝のみによつても薪材千二百貫を得られ、生草採取につき畦畔等より約五百貫を得て補充すれば堆厩肥の生産の点においても大体過不足のない程度にこれを充足し得べく、農業経営に重大なる支障を来すおそれのないことが認められる。ところが、同人の兄藤平源一郎は田五反歩、畑二町五反歩を耕作しているが、先に所謂第一次買収により山林一町五反を買収せられたため、その所有山林はわづかに八畝歩余だけであつて、この外に同人の使用する薪炭採草林はなく、やむを得ず原告の前記山林を共同で無償使用していることは成立について争のない甲第四、五号証及び原告藤平本人の供述(第一回)を綜合して認められるところである。そうすると、前記乙第十四号証の記載より推せば、右山林八畝歩余と原告藤平所有の山林を合せても右両名の採草林としては非常に少いこととなり、(原告藤平についてみると、その使用の割合は前記の三分の一位になる)両名の農業経営に重大な支障を来すものと考えられるのであつて、この点において原告藤平に対する前記一五二一番山林中七反歩についての買収計画は違法といわねばならない。

(2)原告菅谷関係について

同人の耕地面積は田五反八畝歩畑九反五畝歩であることは同原告と被告との間に争がなく、又成立について争のない甲第六号証証人岡野伝六の証言(第一、二回)及び原告菅谷本人の供述(第一回)並びに本件弁論の全趣旨を綜合すると、同人は本件山林の外に尚四町一反二畝四歩の山林(松、杉、櫟山)を所有していること、本件一五二〇番の二の山林のうち北端約二反歩は参加人岡野伝六に、又一五二〇番の二の山林のうち南端約三反八畝歩はこれに隣接する一五二〇番の一山林四反四畝二十三歩とともに参加人野口豊吉に、それぞれ薪炭採草林として使用させていること、参加人両名は右の外には別に採草林として使用し得べき土地を有していないこと、参加人岡野の耕作地は田二反九畝、畑九反五畝、参加人野口の耕作地は田四反二畝、畑九反歩であることが認められる。従つて参加人岡野、同野口は本件一五二〇番の二の山林中それぞれ前記北端約二反歩と南端約三反八畝歩につき採草採薪炭をすることができなくなり、原告菅谷はその残地につき採草採薪をすることができなくなるわけではあるけれども、参加人野口は一五二〇番の一の山林の方を依然として使用することができるし、又原告は前記四町一反六畝四歩から右一五二〇番の一山林四反四畝二十三歩を除外するもなお約三町七反歩の山林があることは前記のとおりであり、そのうち他に採草林として貸していない部分だけでも約一町七反歩の山林が残つていることは原告菅谷の供述(第一回)によつて認められるのであるから、その山林を原告並びに参加人等が適宜の割合に分けて使用することにすれば、(原告菅谷の供述によれば右山林は松林と杉林であることが認められ、前記乙第十四号証によれば松杉林は櫟林に比較して採草採薪の量において劣ることがよくわかるのではあるが)原告菅谷としては勿論参加人等としても営農上重大なる支障を来すものとは思われない。故に原告菅谷に対する本件一五二〇番の二の山林の買収計画はこれを違法と断ずるわけにはいかない。

以上のような次第であるから、本件一五二一番の山林についての買収計画のうち北側七反歩の櫟林に関する部分の取消を求める原告藤平の請求はこれを正当として認容し、一五二〇番の二の山林についての買収計画の取消を求める原告菅谷の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 多田貞治 広瀬友信 石崎政男)

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